【12月9日 AFP】2016年大統領選挙で共和党の指名獲得争いの首位に立つ不動産王ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏(69)が、イスラム教徒の入国禁止を提案したことを受け、世界中で批判の嵐が巻き起こっている。米ホワイトハウス(White House)は同氏を大統領の資格がない「祭りの客引き」と呼び、ライバル候補らもこぞって非難の声を上げた。

 トランプ氏の発言は、過激思想に傾倒していたとされるイスラム教徒の夫婦が起こしたカリフォルニア(California)州の銃乱射事件を受けたもの。バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は6日の国民向けテレビ演説で、事件を「テロ行為」と呼びつつも、「アメリカとイスラムとの戦い」ではないと強調した。

 だがトランプ氏は、それから24時間もたたないうちに、「米国の指導者らが何が起こっているのか把握できるまでの間、イスラム教徒の入国を全面的かつ完全に禁止」すべきだと訴えた。

 エジプトのイスラム教権威機関「ダールイフタ(Dar al-Iftaa)」は、この提案を「過激主義で人種差別主義」と非難。この他、英政府などからも批判の声が上がっているが、トランプ氏は8日もなお、反省の色を見せていない。

 トランプ氏のポピュリスト的な基準から見ても過激な今回の発言は、共和党の有力メンバーや選挙のライバル陣営からも同様に猛烈な批判を受けた。

 候補者指名争いで大幅に遅れをとっているリンゼー・グラム(Lindsey Graham)上院議員は米CNNテレビで、トランプ氏の選挙スローガン「アメリカを再び偉大に」を引き合いに出し、「どうすればアメリカを再び偉大にできるか知っているか」と問いかけ、「ドナルド・トランプに地獄へ落ちろと言うことだ」と述べた。

 だが、トランプ氏は少しもひるまず、自身の入国禁止の提案を、第2次世界大戦(World War II)中にフランクリン・ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)大統領が取った「敵国人」の日本人とドイツ人に対する方策になぞらえた。

 米ニュース専門局MSNBCの番組「モーニング・ジョー(Morning Joe)」でのインタビューで、この提案は米国が重んじる価値観に反しないかとの質問を受けて、同氏はこう答えた。「ノーだ。FDR(ルーズベルト大統領のイニシャル)がやったじゃないか」

 それでも批判の嵐は収まらず、人気児童小説「ハリー・ポッター(Harry Potter)」の作者J・K・ローリング(J.K. Rowling)氏は、同作に登場する悪役よりもトランプ氏は悪者だと述べた。

「恐ろしい。ヴォルデモート(Voldemort)も全く足元に及ばない悪者だ」としたローリング氏のツイッター(Twitter)投稿は、瞬く間に拡散した。

 英政府も同様の反応を示している。デービッド・キャメロン(David Cameron)英首相は報道官を通じ、トランプ氏の発言を「敵対的で、用をなさず、単純に間違っている」と一蹴し、「全く同意できない」と述べた。

 また、スイス・ジュネーブ(Geneva)に本部を置く国連難民事務所(UNHCR)も、トランプ氏の発言に直接言及はしなかったものの、米大統領選で使われている表現は重要な米国の難民再定住制度を脅かすものだと警鐘を鳴らした。(c)AFP/Peter STEBBINGS