【1月2日 AFP】古くさい倉庫の大きな木箱にしまい込まれてのは、喜劇王と呼ばれた映画俳優・監督チャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)が残した「翼」だった──未完に終わった最後の映画のために彼が精巧に作らせた小道具は、白鳥の羽根でびっしりと覆われていた。

 チャップリンは晩年、翼を持った少女が人類に希望をもたらし、そして同時に、人間の最も深い欠陥もあらわにするという内容の映画『フリーク(The Freak)』の制作の構想を練っていた。主役の少女には娘のビクトリアを充てる計画で、そのために驚くほど重厚な機械仕掛けの翼を作っていた。

 チャップリンの息子マイケル(Michael Chaplin)さん(69)は父親が1970年代に書いた脚本を読みながら「私には美しいおとぎ話に思えた。父くらいの年代の男性だけが想像できる夢。とても魅力的な夢だ」と回想し、目を輝かせた。

■チャップリンが残したノート

『キッド(The Kid)』や『モダン・タイムス(Modern Times)』『チャップリンの独裁者(The Great Dictator)』『街の灯(City Lights)』などの映画を製作・主演し、世界から尊敬を集め、愛されたチャップリンだが、最後の映画はこれまでとはまったく違うものにしようと考えていた。

 そしてこのほど、この未完に終わった映画の全容を初めて明らかにした書籍が、チャップリンが他界するまで24年間を過ごしたスイスで出版された。

 著者のピエール・スモリク(Pierre Smolik)氏は、チャップリンが『フリーク』の詳細な構想を記したノート、脚本2冊、せりふ、あらすじ、そして保管映像を直接参照しながら、最後の映画の完成形を想像し、本の中に描いた。

 あらすじが書かれたのは1969年。チャップリン80歳のときだ。それから2年をかけて、レマン湖(Lake Geneva)のほとりに広がる邸宅でさらなる構想を練った。

 チャップリンは主役の不思議な少女を具現化しようと翼を作らせ、当時18歳の娘ビクトリアを少女役に据えて英国のスタジオで数回リハーサルまで行っている。